読書体験設計フレームを更新したので、さらっと解説しておく。
簡単に言えば、分析の射程を広げる方向で改善を施したのだが、その経緯について少し語ってみようと思う。
1.更新内容
手を加えたのは二カ所。感情的同化とエピソード体験の分析内容だ。
感情的同化の変更点
【変更前】
感情的同化の誘発経路=直接誘発、認知的同化経由、比較往来経由の三種類
【変更後】
感情的同化の誘発経路=認知的同化経由、比較往来経由、エピソード体験経由の三種類
直接誘発を削除し、エピソード体験経由を追加した。
当初より軸間の関連性には言及しながらも、感情的同化の誘発経路としてエピソード体験が漏れていたのだ。
これはフレームのベンチマークに使っている自前小説が、基本的に感情的同化体験はやや抑圧気味であることが影響している。さらに感情を刺激する経路として、認知的同化ルートを強く意識していたことも盲点を生んでいた。
さらにそもそも感情的同化を生む経路で直接誘発って何やねん、と改めて問い直したところ、実はそんなものは無いんじゃないか、という考えに至ったのもある。
直接誘発として想定していたのは、「感情語をダイレクトに置いて、地の文なり会話文なりで感情を直接説明しちゃう」という文章なのだが、しかしそれって単に感情という結果の説明に過ぎず、果たしてそれだけで読者側に感情的同化が発生するのか? という疑問が湧いたのだ。
そうではなく、感情語をダイレクトに配置しているかどうかに関わらず、前後の積み重ねが無いと同化は起きないと考えれば、直接誘発なんて経路は空集合なんじゃないか、と気付いたのだ。
そうなると、出来事の積み重ねによる感情的同化もあり得るということになって、エピソード体験経由の漏れに気付いたという次第。
当初から想定していた認知的同化経由は、エピソード体験経由をいくらか含んでしまっていたとも言える。
出来事の連鎖→キャラの認識や反応→読者に感情発露、というルートを想定していたわけだが、間の「キャラの認識や反応」を、常に認知的同化を発生させる重さで捉え過ぎていたわけだ。
もっとライトに、「キャラの認識や反応」すら出来事として扱われる文章であれば、それはエピソード体験経由として評価できる、という理屈である。
これは「感情移入」とは何ぞや、という問いかけにも繋がる話である。当たり前のように評価語として使われてるけど、そこで何が起きているかを本フレームの分析軸を使ってもうちょっと掘り下げてみた結果とも言える。
エピソード体験の変更点
【追加】
出来事パターンとして、「評価差解消型」を明示。
「評価差解消」という出来事を明示したわけだが、これは要するに、「作中において、キャラクターの評価に変動が起きる出来事」を指す。
「誤解が解ける」「過小評価や過大評価が覆る」「価値が遅れて認められる」というような作劇パターンを明確に認識できるようにしたわけだ。
一体何のために、と思う人もいるだろうが、これはまさに前段の「感情的同化の変更点」と関係している。
「評価差が解消すること」によって快/不快が発生しているケースって、無視できないほどに多いんじゃないか、と思ったのだ。
感情的同化の誘発経路として特筆すべき着眼点に成り得る、という観点から、エピソード体験の分析視点に追加し、それを用いて感情的同化の誘発経路を分析させるための指示追加、という理屈である。
2.事の経緯
以上のような変更を加えたわけだが、そもそもの発端は何かと言えば、生成AIさんとの対話の中でふと「読書体験設計フレームを使って、昨今の一般的なアニメや漫画を分析したらどうなる?」と問いかけてみたところ、まずは妙な返答が返ってきたことからだ。
生成AIが想定した作品群は、まあ言ってみれば「なろう系」を筆頭としたラノベ群であるわけだが、
・認知的同化:高
・感情的同化:そこまで高くなく、認知的同化経由
・比較往来:抑えられがち
・エピソード体験:高
という、こちらの抱いていたイメージとは違う結果が返ってきたわけだ。
特に感情的同化と認知的同化は逆じゃないか、しかも直接誘発ではないのか、という違和感が強く働いたのだ。
んで、生成AIの返答をよくよく追いかけてみれば、「主人公がどう評価されるか?」がエピソードの駆動輪になってる、という主張であったので「ああ、そうか」と気付いて、そこを掘り進めた先で「評価差解消」というエピソードパターンに行き着き、先に挙げた変更点に至った、という流れである。
このへんの気付きは長くなりそうなので、別記事で話そうと思う。
3.今回の変更から見る、今後の展望
今回の変更で、読書体験設計フレームは一応の形が確立できた感触がある。
最も大きなポイントは、「感情的同化」という体験の位置づけを明確化出来たこと。
体験を説明するフレームとして一つの軸に含めてはいるものの、やはり読者の感情が動くという現象は、読書体験という観点からも別格として扱うべきだと考える。
もちろん、疑似体験的に視野が広がるとか、考えが深まると言った体験も重要ではあるが、とは言え「感想」という語が読書とは切っても切れない縁として存在する以上、感情というのは読書が生み出すアウトプットとしては一段上に置いて然るべきと考える。(念のため、このフレームが扱うのは基本的に「物語性を持った小説などの文章」なので、実用書だの専門書だのは別カウントとしてもらいたい。)
読書体験の主要アウトプットとしての感情的同化という作用であるとすると、他の三要素、認知的同化・比較往来・エピソード体験が誘発経路として接続されたことで、フレームとしても収まりが良いし、読書を通じて「なぜそのように感じたか」の説明導線も一通りが揃ったと言える。
今回、エピソード体験に「評価差解消」というパターンの検出ロジックを設けたわけだが、もちろんこれですべてを説明できるものでも無いはずなので、今後は逐次的ではあるものの、特定の物語様式に共通して見られるパターンを、エピソード体験に限らず追記していくことになると思われる。
とは言え、このへんは網羅性とフレームとしての収まりを見ながらの取捨選択になるんじゃないかと。
場合によっては、特定ジャンル特化という形でプラグイン的に条件を付け外しするような運用も視野に入れておく。
まあひとまずは現段階で、フレームとしての基本構造は一旦完成としておく。


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